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周りよりも一段ほど高くなったあたりまで登っていくと、さっきよりもずいぶん霧が薄くなったのと併せ、城の様子がはっきりと見えるようになった。
見張り塔のあたりで何人かが慌しく動き回っているのが見える。時折苛立ったような怒鳴り声が風に乗って聞こえてくる。ようやくこちらに対応し、応戦の準備をしているのだ。
「もう遅い」
俺はつぶやいた。既にわが軍の投石器は組み上がり、砲弾が装てんされようとしている。今更何をしようがこちらの一撃は避けられない運命だった。
となると、次に相手はどう出るか。俺は城から出て来るであろう敵の構成と、それぞれの場合で自分たちがどう動くべきかをシミュレートする。
事前に入手した敵の構成情報。予想される敵の数。相手部隊の強みと弱み、俺たちの部隊の特性。有利を取るにはどのように動くのがいいか。
そんな事を繰り返し頭の中で反芻していく。パターンに抜けはないか、致命的なパターンは考えられないか。
戦闘前に何を悩んでいるのかと言われそうだが、こんな小さな思考の積み重ねが最終的に生死を分けるのだ。一度戦闘が始まれば悩んでいる時間はないのだから。
―大丈夫。問題ない。
そう信じ、合図を待っている伝令に向かい「準備完了」の合図を送る。他の部隊も自らの持ち場に移動し、めいめいに合図を送っている。
合図は伝令を通じ、全体の後方、投石機部隊の後ろに陣取った総司令官へと伝えられたはずだ。全体の緊張が一気に高まる。
―さあ、始まりだ。
「撃て!」
投石機隊の声とともに、木がみしみしと鳴り荒縄がきしむ。ぶん、という音と共に弾丸-実際のところ、ただの岩だが-が発射された。
弾は弧を描いて飛んでいく。味方の視線がその一点に集中する。それまで慌ただしく指示の飛び交っていた味方の部隊もしん、と静まりかえって弾の行方を追った。それはひどくゆっくりと飛んでいき-少なくとも俺にはそう見えた-、そのまま城に命中した。
城をかたちづくる煉瓦が白煙と共に崩れ落ちるのが見える。一瞬ののち、ガラガラという、石と石がぶつかり合い転がり落ちるような音が聞こえてきた。
と同時に味方が鬨の声を上げた。うぉぉぉお、という声が先ほどまでの静けさを吹き飛ばす。戦いの始まりだ。
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