序章

5/11
前へ
/32ページ
次へ
別の投石器からも弾が発射される。ぶん、という音と、木がしなる音が断続的に聞こえてくる。城に弾があたって弾ける音と、煉瓦が崩れ落ちるような音が断続的に聞こえてくる。 と、相手の城から聞こえてくる怒号が少しずつ統制のとれたものになってきた。先ほどまではただ混乱しているといった風だったが、何かしらの指示を出しているといった風に変わってきている。 ―そろそろ出番だな。 と思うとすぐに、城壁のあちこちに弓兵が顔を出すのが見えた。少し遅れて城門がゆっくりと開いていく。 俺たちの視線は城門に集中した。何が出てくるか如何でこの先の展開が決まる。 中から兵士がゆっくりと前進してくる。出てきたのは…剣を構えた重歩兵と大型弓(バリスタ)だ。 予想通りの展開だった。相手側に投石器がないのは分かっている。相手の攻撃はこちらまで届かず、逆にこちらの攻撃は相手に届く。今の世の中、投石器は最大の射程を持つ武器だった。 相手の狙いはこちらの投石器。大型弓をつかってこちらの投石器を壊そうという腹だろう。だが大型弓をこちらに届かせるためには距離が足りなかった。だから前進してきたのだ。 投石器狙いの大型弓と、ガード役の重歩兵。俺は相手の構成をざっと見て、勝利を確信する。 ―これなら、いける。 槍兵さえいなければ俺たちでどうとでもなる。それは最近、俺たちの間ではいわば常識となった戦いのルールだった。 すぐさま総司令からの指示を受けたであろう伝令がこちらへ向かい走ってくる。内容は聞くまでもない。 「騎馬隊、前へ!」 俺は号令をかけ、自ら部隊の先頭に陣取った。槍を脇に抱える。すっぽりと頭を覆う兜をかぶった。後ろを振り返り、全員が準備できていることを確認する。 味方の弓部隊に「援護を」の合図を送る。弓隊の隊長が頷くのを確認する。そのまま歩兵隊には「待機を」と合図を送った。歩兵隊の隊長が不満そうに頷く。 ―残念ながら、君らの出番はないよ。 そう心の中でつぶやき、再び前を見る。すぐ横や後ろには俺の部隊の面子が居るはずだが、もはや相手以外は目に入らなかった。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加