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俺の手には一瞬の抵抗があったが、それを抜けてしまうと柔らかな感触が伝わってきた。固い皮の果物を潰したような、そんな感触。相手の体が今どんな状態になっているのか。あまり考えたくはない。
俺と馬はその反動でスピードを落とした。それで槍に刺さった相手が再び槍から抜け、斜め前方に吹っ飛んでいく。吹っ飛んでいった相手は後続の兵士たちの目の前に転がり、ごろりと動きを止める。脇腹のあたりが通常ではありえないような形に変形していた。既に助からないことは明白だ。
それまでは威勢の良い声をあげていた敵兵も静まり返る。中には騎兵隊をはじめて相手にするものもいるのだろうが、騎兵隊の威力を目の当たりにして恐怖を感じない者は居るまい。
と、横からもう一騎、もう一騎と歩兵団へ騎兵が突っ込んでくる。その度に突撃を受けた歩兵は吹っ飛び、そしてそのまま動かなくなっていった。
力の差は歴然だった。
そこからはもう一方的だった。俺が最初の突撃をかけてからものの数分で相手は戦意喪失していた。
それはそうだ。勝てる見込みがあれば戦いもするが、勝てるビジョンが見えないのに戦おうなんて思うまい。誰しも無駄死には嫌だろう。
相手の部隊の隊長らしき人間が何か叫んでいたので、そっちの方向に突っ込んで行って一撃を加えて黙らせる。隊長らしき奴は、ごろりと転がり動かなくなった。
それまでも腰が引けていた相手の兵士たちは、それで堰が切れたように逃げ出す。お陰で相手兵士の壁の後ろに位置していた大型弓までのルートがクリアになった。
―勝ったな。
俺はそのまま、大型弓に向かって駆ける。大型弓に辿り着いた俺たちはさしたる抵抗もなくそれを破壊していった。
大型弓のオペレータ達もそそくさと逃げ出している。まぁ逃げるのが正しいのだが。この状況で孤軍奮闘など馬鹿のやる事だ。
留め具のあたりに目星をつけ槍でどんと突くと、留め具が折れ、荒縄が解けて弓の一部がバラバラになった。簡単なものだ。これでもう使い物になるまい。
ついでに相手の装備の研究のため、一つを持ち帰ることにする。俺は部下の一人を「これは壊すなよ」と見張りにつけ、もう一人を使って歩兵隊長への使いに出す。あいつらの部隊に武器の回収をさせるためだ。
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