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父親は…
冷静な判断ができたら、
きっと本当に父親替わりになってくれようとしてるんだと感じることが出来たはず。
だけど。
どうしてもそれは受け入れられなかった。
この時は…
ここが悲しい思い出しかない場所…としか、
考えられなくて。
「いつでも帰って来たらいい。
その時までには、
由美も良くなってると思うから…」
玄関を出たときに父親が言った。
振り返ると、
あの日、ここで…
麻美を最後に見た景色
ありがとう…と、
唇が動いた…
あの時が鮮明に蘇って
乾いた空気も、
冬眠に入った木々たちの香りも、
全て同じで…
恐ろしいものに追われるように、何も言わずに走り出す。
ミリが庭の隅から顔を出して、
小さな声で、鳴いた。
でも、立ち止まることなく走って…
息が切れて、
咳が出て、
気が付けば、
あの、
忌々しい坂道も転がるように駆け降りてて…
駅までの道を、
一心不乱に走ってた。
麻美が毎日、
歩いてたであろう道。
車でしか通ったことのない道。
少しの間、
住んでいた町を…
あとにした。
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