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「ちょっ……苦しい」
亜由子は俺から離れると鍋を火から下ろし、台所を出て置いてあった鞄に手を伸ばした。
そこから見覚えのある封筒が出てくる。
「読んだよ」
それはあの夜、世理さん監視の下書かされた反省文だった。
原稿用紙にして十枚分の。
そしてそれと。
「ハンコも押しといた」
婚姻届けと離婚届。
「世理ちゃんが中田さんに伝えてって。害虫駆除はまた今度にしますって」
「害虫駆除……」
「わたしはまだ荘司さんを少しだけ信じられない。でも世理ちゃんと斑目さんが笑って何故か太鼓判押してくれたの。見えない鎖が繋がってるから大丈夫って。わたしは二人を信じてるから、その二人が荘司さんを信じるって言うなら、信じようと思うの」
「あ、はは……」
恩に着るぞ、斑目。
あのことは言わないでいてくれたんだな。
「わたしって、単純で馬鹿かもしれない」
「それが亜由子のいいところだよ」
手を伸ばした俺。
はにかんだ亜由子。
「でも次に同じことしたら、殺すわよ」
一瞬手を引っ込めそうになったが、俺は亜由子を引き寄せた。
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