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あれから数日、俺は亜由子と会えずにいた。
亜由子は有休を取っていたらしく、彼女の会社に行っても空振りに終わった。
その間に何度か結城さんから連絡があったが、無い用事を作り断っている。
これ以上愚かな真似を重ねる訳にはいかない。
仕事が終わった俺は、すっかり腑抜けの抜け殻で家に帰る。
妻と住んでいた家は引き払い、今は3LDKのマンションに住んでいる。
いつか亜由子と暮らす為に広い部屋を用意したんだ。
物音ひとつ聞こえない廊下を歩き、鍵を差し込む。
ドアを開けると光が零れ、ふわりと美味しい香りが漂う。
玄関には見たことのある靴が揃えてあった。
俺が部屋に飛び込むと、亜由子がいた。
台所で料理をしている。
俺に気がつき、振り向く。
「おかえりー」
「あ、あゆこ」
何事もなかったかのように、亜由子は笑った。
「あゆこ~」
駆け寄り抱きしめる。
この匂い、この感触。
俺が感じたかったのは、これだ。
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