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「何とか言いなさいよ」  と言われましても、僕に何か言えるはずはなく。  でくの坊の様に突っ立ってることしか出来ない。 「ほんと、最悪。明彦もあの人も」  そう言った結城さんは、僕に抱き付き泣き出した。  なんなんだ一体。  女という生き物は、怒ったり泣いたり自己完結してみたり大変だ。  僕は結城さんの背に腕を回すかどうか躊躇いながら、おずおずと抱きしめてみる。  泣いてる彼女の頭に顎を乗せ、顔を見ないようにした。  きっと化粧が崩れて、大洪水だろう。  それにしても、これから僕はどうなってしまうのだろう。  ガラス張りの廊下に目をやると、薄暗い中淡いライトに照らされた赤い絵画が浮かび上がっている様に見えた。  ふと芹沢世理を思い出す。  同じ赤色の、あの時に観た絵画の裏設定は、瘡蓋、だったかな。  この人の恋も思いもいつかは瘡蓋になり、剥がれ落ちて何事もなかったかのように綺麗になるんだろう。  痕が残ってしまうかもしれないけど、それは時と共に薄くなるはずだ。 「君、名前なんて読むの?」  僕の胸にあるネームプレートを指差した彼女は、気まずいのか瞳を伏せている。 「あきら。おとたちばな あきらです」 「綺麗な名前ね」  褒めるところがそこしかなかったのか、彼女は再び僕に寄りかかった。
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