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「達樹? 立てますか?」
「う、うん……大丈夫」
驚愕のラスト三十分が貴方を襲う。
なんて宣伝文句に釣られるんじゃなかった。
あまりに怖くて、その三十分間は照義にしがみ付いて震えていた。
スリリングなサスペンスって書いてあったのに、スリリングどころの話じゃない。
もう終盤はただのホラー映画だ。
この監督にはサスペンスとホラーの区別が付いてないんじゃないだろうか。
しかもそれが三十分って
映画の四分の一がサスペンスの分野じゃないなら、そう言っておいてほしい。
差し伸べられた照義の手にどうにか掴まりながら、よろよろと立ち上がった。
「抱っこしましょうか?」
「大丈夫! 別に驚いただけだってば」
確かに驚愕だった。
驚愕過ぎて朝から大変な思いをしてしまった。
劇場を出ると一気に元の世界に戻ってこれたような
試練をくぐり抜けた冒険家の気分になれる。
ほっと一息大きく吐いてから、照義の背中にぴったりとくっ付きながら歩いていく。
「柿花君!」
映画が始まる前にちょっと話した豊崎さんが私服になって、俺達が出てきた劇場の脇で待っていてくれたみたいだ。
俺も照義も全然気が付かなくて、素通りしたらしい。
でももしかしたら照義は気が付いていたのかもしれない。
駆け寄ってきた豊崎さんにわからないくらいに小さくだけど、眉をひそめて少しだけ俺と彼女の間に割り込んだから。
私服に戻るとうっすらと高校時代の彼女の面影を思い出せた。
シンプルなデザインだけど、明らかに質が違うんだとわかる洋服にアクセサリー
お嬢様
って雰囲気が服装からも仕草からも感じられた。
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