第4章 キリッとも、スラッとも

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 いつものマットよりも心なしか固い。寝心地悪い。  いつ、新しいものに変えたんだっけ? 「達樹様、布団を干しますので起きてください」 「んー……」 「朝食ならもう作ってあります。顔を洗って早く召し上がってください」 「んー……」  やんわりと揺さぶられて枕に顔を埋めることで拒否の姿勢を示す。 「五秒以内に起きないと……くすぐりますよ」 「!」  いつもより低くなった照義の声にはっとして飛び上がった。 もう魔の手は俺の腰のすぐそばまでやってきていて、慌ててベッドから飛び降りようと思ったけれど、  ベッドどころかマットじゃなくて布団で  寝ぼけながら周りを見渡して  ここが住みなれた家ではなく昨日越してきた小さなアパートだという事を思い出した。  だからか……いつもよりも照義が俺を起こす時に顔が近かったのは。なんだか覆い被さられているようで、なぜかすぐ目の前にあった顔にドキッとしてしまった。 「睨んでもダメですよ。まったく。くすぐられるのが嫌なら自発的に起きてください」 「……」  別に睨んでいたわけじゃない。いつもならキリッとセットされた髪に、黒のスラッとしたスーツのはずの照義が、昨日と同じように前髪も下ろしていて、服だってTシャツにジーパンだからだ。 それがやっぱりいつもと違うように見えて、そんないつもと違う照義が覗き込んでいたから……ただ単純に驚いただけだ。 「今日はカーテンやら昨日買えなかったものを買いに出掛けます」 「じゃあ僕も一緒に」 「いえ、もう出掛けるので、達樹様はご自分の朝食を済ませて食器を洗ってください」  今までならそんなことやらないでよかった。食べ終れば自然と皿を下げてもらえたし、食器を洗ったのなんて昨日が初めての経験だった。泡のついた手で皿を持つのはツルッと滑って落としそうで、ちょっと怖くて、すぐ横に並んで立っていた照義に代わってもらってしまった。  買ったばかりで割ってしまったら勿体無いからと言い訳をすると、僕の口から勿体無いなんて言葉が出てきた事に驚いていたっけ。言い訳を、って怒られるかと思ったのに、また微笑まれて褒められたような気がして嬉しくなってしまった。
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