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いつも乗っているベンツとは全く違うものすごい振動は逆に眠気を誘って、いつのまにか転寝していた。肩をぐわんぐわんと揺さぶられ、はっとして、慌てて飛び起きる。
なんて
なんて恐い夢を見ていたんだ。
ゾッとしている僕を執事である照義(てるよし)が覗き込んでいる。
よだれを垂らしていたらしく、白い清潔なハンカチで口元を軽く抑えてくれる。そしていつも運転する時に嵌めている白い手袋……がどうしてか今日は軍手だ。
「今日中に引っ越しを済ませてしまいたいので、達樹様も早く降りてきてください」
引っ越し?
その言葉にぼんやりと辺りを見回す。
そして僕が乗っているのはベンツじゃなくて「ケイトラ」と呼ばれる、全部が全部乗り心地が最悪な乗用車だと思い出した。
揺れる。
とにかく揺れる。
エンジン音というものも初めて実感した。
「照義? 何……してんの? ここどこ?」
「もう何度も説明しましたよ。今日からここに住むんです。旦那様達は海外逃亡中です」
見上げると三階建ての扉が九つもある家。
外装はただの白い壁に外部からの侵入を防ぐための鉄格子、セキュリティはたったのそれだけらしい。冗談みたいだけれど、照義はいたって普通に言ってのけている。軍手で、普段のように上品な手付きで僕を案内してくれた。
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