バレンタインSS 7 ハッピーバレンタイン

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「まったく」 「て、て、て、照義」  息するの、忘れちゃう。髪! かき上げるの禁止。しかめっ面で見つめるのも禁止。眠そうな不機嫌顔で溜め息も禁止。じゃないと蕩けてしまう。 「可愛い人だ……」 「な! ななな、そんなわけない!」 「えぇ、そんなわけないほうがよかったです。本当に。まったく。どうしたらそんな可愛いままでいられるんですか。電車なんて乗せられない。もう少し抑えてください」  寝ぼけてるんじゃないだろうか。何をこの元執事は言い出したんだ。しかも、そんな吊り目の怖い顔で。ドキドキする。 「ほら、まだ寝る」  照義の不機嫌な顔に見惚れてしまう。 「おやすみ、達樹」 「!」  おやすみ、なんて眠れるわけないよ。  ぎゅっと懐に仕舞い込まれた。そしてそのまま背中から抱きかかえられて、うなじにキスをされる。甘いリップ音だけが早朝の部屋にわずかに響く。  ね? こんなのドキドキしすぎてさ、眠れるわけ……な……い。  結局寝ちゃったじゃないか。しかも、寝ぼすけだなんてさ。  でも! あれは照義のせいだと俺は思う。あんなの寝てしまう。好きな人の腕の中で、好きな人の寝息を聞きながら、起きてられるわけがない。極めつけは、うなじへのキス。そんなの寝てしまうに決ってる。だって、その数時間前にはトロトロのふにゃふにゃになるくらいに、エッチなことをされていたんだから。  そこで、また思い出しかけてしまう。  ここは駅だぞ。人がたくさんいて、いや、いなくても外でそんなことを考えてしまってはいけないわけで。脳内でセクシーボイスを発する照義は、急いで、引き出しに――。 「勇将クン! 待ってってば!」  ハッとした。 「早く来いよっ」 「待ってってばー」  勇将君だ。駅のホーム、反対側、短い髪がヤンチャな感じを印象付ける。  その勇将君の後ろを男の子が一生懸命に追いかけてた。走るから、ランドセルが左右に揺れるんだ。そのせいで、その子の走り方が危なかったらしい。ランドセルに走らされてるみたい。  だから、勇将君が白線より出そうな彼を心配そうに見守っていた。  ようやく追いついたその子は、はぁはぁと肩で息をしながら、膝に手を置いて、勇将君を見上げる。そして、勇将君は真っ赤になった。耳まで真っ赤にしながら、怒ったような、渋い顔。
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