第1章 脱セレブ生活!

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「雑巾がけ上手じゃないですか」 「褒められても嬉しくない」  今日から我が家になる三〇三号室に入るなり驚く事ばかり。  まず全部が全部コンパクトだ。トイレは今までの広さの半分くらいしかないし、風呂はせいぜい入れて二人。リビングと厨房は一緒になっていて、ダイニングキッチンというものらしい、最初リビングがないと思ってしまったほど狭い。そして厨房の名前がキッチンに変化した。「全部が全部小さいな」と呟くと、一般的にはバストイレ別なんて良い物件だと教えられた。  掃除なんて生まれて初めてやった。  掃除機はまだないからと、雑巾と呼ばれるタオル生地の布切れで、ありとあらゆる所を拭いていけばいいらしい。見よう見真似で雑巾がけを終わらせた頃には雑巾も、それを洗うために洗面所に溜めておいた水も真っ黒になっていた。  結構な重労働。夏で冷房もないせいか、掃除が終わる頃には汗びっしょり。冷房はすでに備え付けてあるけど動いていない。というか動かし方を知らない。  今までは家中が常に適度な温度になっていたから、操縦の仕方なんてわかるわけがない。きっと全ての空調設備は万全の体制で部屋の中に埋め込まれていたんだ。こんな剥き出しになっているの機械を初めて見た。 「掃除も済んだので次は買い物ですね。テーブルと布団くらいはとりあえずないと」 「ベッドじゃないのか?」 「ベッドなんて置いたら一部屋潰れますよ」  でもそれじゃあいちいち起きる度に、布団を仕舞ったりしたいといけない。  ……あれ? 「なぁ照義」 「なんですか達樹様。早く買い物に行きますよ。布団とテーブルと、あととりあえずの今日の夕飯分の材料を買わないと」  夕飯なんて作った事ない。布団の上げ下げだって勿論ない。つまり誰かが一緒にいないといけないわけで。それは普通に考えて僕専属の執事である照義しかいないわけで。 「なぁ照義」 「はい、なんですか? ぼーっとしてないでください。夕方には軽トラを返すんですから」  うん。それはもう聞いた。 「僕とお前って一緒に住む、なんて事ある?」 「? そうですよ? でなければ誰が達樹様の身の回りの世話をするんです?」 「そりゃ執事の照義だろ」  でもこの狭いの一言しか出てこない部屋に僕だけでなく、身長百八十の照義も住むなんてさ。極端に狭すぎると思うんだ。
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