第2章 元セレブのお買い物

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 買うのは布団とテーブルと調理器具。  急遽の引越しだから、とにかく何もかもがいっぺんに押し寄せてくる。  お金もなければ、時間もない。だから余計な所には寄らない。今までのように好きな物を好きなだけ買えはしない。と、何度も何度も言われると、子どもじゃないんだぞっ! と言い返したくなる。  でも言い返さない。というか、できない。  ひとりで買い物にも行けない僕はたしかに子どもと大差ないから。あれも欲しい、これも欲しい、でなんでも買っていた。急に制限されるとこんなに買い物が難しいんだなんて、知りもしなかったんだ。こっちのほうが値段は安いけれど、この機能がないとか、そんな考えたこともない。 「まずは布団だろ?」 「そうですね。達樹様のものだけでも最低限揃えないと」 「お前は?」 「私はどこでも寝られます」 「そんなの俺が居心地悪い。お前もあそこに住むんだから、お前の布団も最低限揃えないと、だ」  俺の言葉に柔らかな笑顔が返ってくる。  普段はあれをしろだ何だと時間の管理もしている照義は、小姑のようにうるさい。でもそんな中でこうやって微笑まれると、ふわっと心が浮き上がる。 「旦那様がくださった当面の生活費がこれですので」  難しい顔をして布団を選んでいる照義。普段はビシッとした黒いスーツしか着ていない。 「照義」 「はい、何ですか? トイレならすぐそこの」 「違う! それってお前の普段着?」  トイレくらい自分一人で行けるに決まっている。からかっているのか、本気で言っているのか。抗議をしても、照義は意に介さず、布団を睨みつけている。  振り返った照義はビシッとしたスーツではなく、ラフなTシャツに、破けてもよさそうなジーンズ。髪形だっていつもはサイドに流しているのに、掃除で乱れたせいもあるんだろうけど、服装といい、前髪が揺れているというのが珍しすぎて見入ってしまう。 「そうですね。普段といえば普段なのでしょうか。二十四時間執事ですので。とくに達樹様の執事には休息なんてありませんよ」  さらっと嫌味を言われた気がする。  確かにちょくちょく照義を呼びつけるけど、その度に嫌な顔一つせずに、しかも何をしてほしいのかわかっているから、こっちだってつい呼んじゃうんじゃないか。
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