第1章

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佳菜子は自称歌手だ。 歌手と言ってもオペラ歌手。 裏声で腹の底から頭のてっぺんに向かって歌い上げるのを得意とする。 しかし仕事はない。 楽団に所属して月に数回の舞台と舞台に向けた練習があるだけで、空いた時間はアルバイト三昧だった。 「佳菜子聞いた? 悠様が慰問ボラの相方を探してらっしゃるんですって。」 佳菜子の親友がスマホ片手に話してきた。 慰問ボラというのは、年に数ヶ所の刑務所や老人ホームを慰問するボランティアの事だ。 慰問する人によっては手品をしたり話芸を披露したり、慰問専門の芸人さんもいるという事だ。 佳菜子は慰問には興味がなかったが、憧れの悠様の相方という響きに心を奪われた。 「悠様!? 相方!?」 佳菜子の口からはオウム返しの言葉しか出なかったが、頭の中を整理しきれない故の言葉だ。
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