第1章

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 ルミナが首筋から髪を掻き上げる。  そこだけ時間の流れが変わったようになだらかなウェーブを描いてすとんと背中に落ちる。  ふわっと香るシャンプーの匂いに、わたしは思わず頬を緩めてしまう。 「いいなあ、綺麗な長い髪――お姫様みたい。  それにふんわりいい匂いがするの。  女の子らしい甘いにおい。  わたしもルミナみたいに綺麗だったらなぁ」  椅子に座るルミナの後ろに立つわたしは寄せた机上から櫛を取り上げ、彼女の髪を梳く。  枝毛もなければ、縮れた毛や、飛び出すように跳ねる暴れん坊もいない。  天使の輪とはいい表現もあったものだとつくづく思う。  櫛を梳く手が止まるとすぐにもルミナはわたしの方に顔を向けた。 「それなら、私はむっこの元気のよさが羨ましいよ。  運動神経抜群で、おひさまみたいにキラキラして、風を追い抜いてゴールテープを切る――そんなむっこが……好き」  放課後。  わたし達以外に誰もいなくなった教室の開け放った窓辺から爽やかな風が舞い込んでくる。  黄昏に染まる温かなウォームカラーが窓際の席に座るわたし達の頬をほんのり橙色に染めていく。
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