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夜の街、繁華街。
会場の居酒屋がある通りを歩いていたわたしはふと、足を止めた。
反対側からゆっくりと歩いてくる人影に目を奪われていた。
時が止まったような気がした。
ブラウンの髪はざっくりと切られ、短くなっていた。
それでも、誘うような瞳と目鼻立ちはあの頃の面影を何一つ失わせてはいなかった。
俯き加減にされていた彼女の目線がゆっくりとゆっくりと上向きになり、前方に立つわたしを視界に入れた。
彼女が立ち止まった。
肩がけしていたショルダーバッグが歩道のアスファルトの上に落ちる。
両手で口元を覆い、形のよい眉を下げて、瞳を涙のヴェールで包み込んで――
「――――む、むっこ……っ」
何年も時を越えたサクラ貝のような唇がわたしの名を呼ぶ。
「ル……ミナ、ルミナ……あい、逢いたかった……っ」
わたしは立ち止まったルミナのもとへ駆け寄り、気付けば追い越していたルミナの背に腕を回す。
「むっこ、むっこ……っ」
わたしよりも小さな肩は小刻みに震えていた。
なくした宝物が手元に戻ってきた時のように、わたしの心はあの高校時代の時に戻っていた。
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