記憶のカケラ

31/38
前へ
/38ページ
次へ
「藤井、俺はっ…!」 「帰ってください!!今日までは、ゆっくりさせてやってください!」 「……分かった。藤井、七尾。沙耶を頼んだ。」 「課長…」 俺は、車に乗り込み発進させた。 だが、俺が向かったのは自宅アパートではない。 「すみません、予約はしてないんですが…空いてますか?」 「望月さま!!」 駆け寄って来てくれた女将。 そう。 俺が向かったのは、櫻旅館だ。 「こんにちは。」 「渡辺様のご様子はいかがですか?」 「はい、お陰様で。ただ…まだ記憶は戻らないみたいで…」 「左様でございましたか… 望月様、どうか望みを捨てずに側に居て差し上げてください…」 「そう出来たら良いんですが、彼女が自分を忘れているという事が…やはりショックで。」 “自分を忘れているという事がショック” それは、初めて言葉にした俺の本音だった。 .
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加