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渉さんは、歩みを止めて立ち止まり私の目の前に立った。
そして、姿勢を低くして私の顔をマジマジと見つめる。
「俺たちは、確かに色々なことがあった。でも、まだ始まったばかりだ。
これから、一緒に過ごす時間の方が圧倒的に長い。」
「でも…」
話しに聞いた、失った記憶の全てがキラキラしたものに感じてしまって…
過去の自分に嫉妬しそうになる…
そんな私に気付いた様に、渉さんは微笑んで頭を撫でてくれた。
「沙耶、よく聞いて。
きっと、仲良く時間を過ごせるばかりじゃないと思う。
ケンカもするだろうし、心配させる事もあるかもしれない。
それでも、その倍以上の時間を笑顔で、幸せだと思わせたい。
だから…」
一息吐いて、渉さんはコートのポケットから1つの小さな箱を取り出した。
「これから先、沙耶のすべての記憶の隣に居させて欲しい。」
「えっ…?それって……」
私の頭に浮かぶ“?”に答える様に、手の中の箱を私に差し出す。
「俺と、結婚して欲しい。」
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