そして、物語は動き出す

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そして、物語は動き出す

ーー自分は魚に似ていると思う。 彼は熱帯魚の水槽をながらそう思った。 大きな流れに飲み込まれて、少しずつ消耗しながら、それでも必死で呼吸するために口をパクパクさせている。そんな自分の姿が容易に想像できた。 ショッピングセンターの一角に彼はいた。目の前では売り物の熱帯魚が口をパクパクさせながら泳いでいる。その姿は何となく面白くて、悲しい。 本当なら、こんな所には来なかったーーさっきから繰り返す言葉だ。 ショッピングセンターなんて、一人では絶対行かない。 彼はデートの約束でこのショッピングセンターに来ていた。しかし相手はいない。約束の時間の10分前に「ごめんなんか具合わるい」というメッセがきらきらの装飾つきで送られてきた。 彼は知っていた。この相手はいつも気まぐれだということ。「具合わるい」は彼女が約束を破る時のいつもの言い訳の一つだった。たぶん、急に、出掛けるのが嫌になったのだろう。ケンカをしていたという彼氏と仲直りしたのかもしれない。
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