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「起こしてしまってすみません」
「大丈夫よ。……それより、もう終わったの?」
「元より話す事はそんなになかったですから。それに……」
ーーなんだか嫌な予感がしたから。
"それに?"と言葉の続きを求める綾に対して首を横に振る。
心配をかけるような言葉は口にしない方が良い。綾に自分のせいだと思わせてしまうかもしれないから。
「そっか。……まあ、その、早く帰ってきてくれて嬉しい」
プイッとそっぽを向いて耳まで真っ赤にして言うものだから、それがすごく愛おしく思えて。
綾の背中の下に手を滑り込ませて、そのまま自分の上に向き合うように乗せてしまえば、更に耳が熱くなる。
「なっ! なにするのっ……」
「可愛い。本当に、綾が大好きです」
少しの沈黙の後、はらりと綾の黒髪が僕の頬にかかる。
唇に一瞬触れた温もり。
真っ赤な顔した綾の熱が、一瞬してこちらにまで移ってきた。
潤んだ瞳と視線が交わる。髪をかきあげて白くて細い首筋に唇をあてると、僅かに身体が跳ね上がった。
「稔麿、私っ」
「稔麿! 新撰組がっ! 池田屋があいつらに突き止められたっ!!」
何かを言おうとした綾の小さな声は、部屋の外から響く晋作の慌てたような声によって遮られた。
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