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急に掴まれたもんだから舌を噛んで、口の中に血の味が広がる。
私を見下ろす斎藤の目は暗くて冷たくって、私なんか映してないみたいだ。
「逆らうの?」
「ええ。私は誰にも手懐けられる気なんてないの」
「俺はさ、平ちゃんと違って優しくないから。そうやって抵抗されると、力づくでも屈服させたくなるんだ」
「嫌な趣味ね」
藤堂も別に優しくないけど。
こいつほど乱暴ではない、と思ってたりもする。
空いてる方の手で背中を撫でられると、ゾクリとして昨日の記憶が蘇った。
「昨日の続き、しちゃう?」
「私これでも、初めてする時には人並みに夢を持ってるの。……好きな人とじゃないと嫌、ってね」
「綾ちゃんの好きになった人は死んじゃうんでしょ? 叶わない夢だよね、それ」
わかってる。
好きになった人と、触れ合うことすら中々叶わないなんて。
触れ合う前に、みんな私の前からいなくなっちゃうんだから。
先輩だっていなくなったもん。最後に優しい温もりを残して、ね。
「これでも俺は経験豊富。楽しませられるよ?」
怪しく笑う斎藤の顔が近付いてきて、思わず目を閉じてしまった。
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