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あー……嫌だ。怖い。こんなに顔を近付けないで欲しい。
さっきの、斎藤にされたことを思い出すから。
「抵抗って言葉知らないの? 女だろ?」
「それぐらいしたわよ」
「でも口づけされたんだ。まさか一君のものになろうなんて、考えてないよね?」
んなわけあるか馬鹿野郎っ。誰が襲ってきた奴を好きになるかっての。
ぶんぶんと首を横に振れば、藤堂の眉間の皺がなくなる。
そして、雨が降る中ぎゅうっと抱き締められた。
「はっ? ……ちょっ、何して、離せっ」
「怖かったんでしょ? よく堪えたね」
何も言ってないのに、こいつにはなんですぐにバレるのだろう。
斎藤よりも幾分か小さい背丈なのに、藤堂の腕の中は頼もしく感じる。
だから、振りほどけなかった。
ーーザァッ。
いつの間にか雨足が強くなっていて、私の着物も藤堂の着物も水を含んでいる。
着物は身体に張り付いて、気持ちが悪い。
ガラリ、と戸の開く音が雨音に混じって聞こえてきた。
「何やってんだ」
「綾を慰めてたんですよ。一君が酷いことするから」
「そいつから離れろアホ。こっちはお前に死なれたら困るんだ」
パッと私と藤堂を引き剥がすと、土方の鋭い眼光が向けられる。
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