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うつむき加減で辛そうに受け答えする、るーに胸が痛む。
「ごめんね? チャラいとか、ストーカーとか……。でも信じて。るーとの再会は、本当に待ち望んでたの!」
「……本当に?」
「本当よ!」
るーの胸にすがるようにして叫ぶ。
――チュッ
唇に一瞬、温かな何かが触れた。
「うん、信じるよ。ご馳走さま」
「っ!」
ご馳走さまって……。
からかってたの?
悪戯が成功したみたいな、心底愉しそうな、るーの表情。
垂れ目具合が、さらに小悪魔感を演出してる。
「ごめんね? あの院長に妬いたんだ 。あなたの夢の手助けを俺は出来なかったし。営業に出たら、また何日も会えなくなるって思ったら、つい……」
私の左頬に手を添えて、また親指で泣きボクロをなぞりながら、目尻を下げて謝る、るー。
「もう一度……。キスして」
私からキスをねだられるとは思ってもみなかったのか、少し身体が固まったのがわかった。
そんなるーの前髪をかきあげて、私と同じように顔の左側にある彼のホクロを露わにする。
初めて逢った時に、『ホクロ、目の上と下でお揃いだね!』と、可愛らしく笑ってた、るーを何度思い出したことか……。
私から近づいていく。
唇を静かに押し当てて、温かくて柔らかいその感触に浸る。
「……んっ」
深くなるキスに、我慢できずに声が漏れる。
ふと、唇を離して、困ったような顔で私をじっと見つめてくる、るー。
「ねぇ……。俺、奪われてるの?」
「そうよ。私の心は、もうずっと琉貴に囚われてるんだから、あなたも私が奪うの」
琉貴。
初めて言葉にのせた、彼の名前。
私の心にずっと住んでた人の名。
「ねぇ、那智?」
「ん?」
「景色、ろくに眺めないうちに
もう下に着いちゃうね」
「ホントだ……。勿体ないことしたね」
「大丈夫だよ。俺達にはこれからたくさん時間があるんだから。もう一回乗ればいいんだよ」
「ふふっ、そうね。何度でも、同じ景色をあなたと一緒に眺めたい」
そう。
浅草(ここ)で待っていれば、琉貴が私のところに帰ってきてくれる。
哀しい想いで眺めた景色も、あなたとの未来の希望が、同じ景色を鮮やかに塗り替えてくれるから。
もう、大丈夫――
ーFinー
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