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「ねぇ、なっち先生」
「なぁに?」
肩から腕へと揉みほぐしている最中、不意にひなちゃんが呼びかけてきた。
「あのね? ひなのお兄ちゃんがねー、足をケガしちゃったのにお医者さんキライって言って、おうちで寝てるの」
「足を? どんなケガなの?」
「うーんとね、転んじゃって足首が腫れちゃってるの」
捻挫か。
「それでね、ママがね。なっち先生が予約が空いてる時に診てもらえるなら、首しめて連れて行くから、ひなに聞いて来なさいって言ってたのー」
首……絞めて?
うつ伏せになっているため、ひなちゃんの声は所々聞き取りにくい。
うーん、聞き間違いだよね?
小学生だしね。
「予約が入っていても、急患さんならいつでも診療するわよ。診療時間終了の19時までならいつでも来てもらって大丈夫よ」
「じゃ、すぐにママに言わなきゃっ!」
そう言って起き上がろうとするひなちゃん。
「こらこら! ひなちゃんの治療時間が終わるまでは動いちゃダメ!」
「でもでも! お兄ちゃん痛がってたからっ!」
あぁ、お兄ちゃんが心配なのね。
わかった、わかった。
「すみませーん! 宮下さーん」
私の治療ブースから受付はほんの少しの距離。
「はい、何ですか? 那智先生」
宮下さんがカーテンの向こうで尋ねてくれる。
「すみませんが1階のカフェに電話して、石川さんに、私がひなちゃんに事情を聞いたので息子さんを連れて来てくださいと、伝言していただけませんか?」
ひなちゃんのお母さんは、ひなちゃんを送ってきた後、いつも1階のカフェで治療が終わるのを待っている。
宮下さんの電話応対能力はずば抜けているから、間違いなく伝わるだろう。
「なっち先生、ありがとう!」
「どういたしまして。さあ、そろそろ痛いとこ触るわよ? がんばろうね」
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