第1章

2/3
前へ
/3ページ
次へ
「なんで後衛のくせに前衛よりボロボロなわけ。どうせ人手足りなくなったの見かねて両方ウロチョロしてたんだろうけど、心配するこっちの身も考えなよ。」 ゴタついた任務を終えて自室に帰った途端、この説教である。 薄く灰がかった、まるで陶器人形のように美しい顔立ち。凛とした佇まい。街を歩けば誰かしらは振り返る妖しい雰囲気。 見目麗しいこの同期の少しばかり心配性なそれの対象は、残念ながら女性ではなく自分である。 褐色の肌で垂れ目、顔に入った刺青のせいかこの同期とは別の意味で誰かしらが振り返る自分の、一体どこがいいのか。 黙って手当てされる自分と同期を不安そうに見比べるパートナーの頭をぐりと撫でて反論しようと口を開くと、即座にそれを察した同期に睨まれる。 「言い訳は怪我しなくなってから。」 普段は無口のくせに。 ぽろっと漏れた文句は、さらりと無視される。 「つーか何で俺の部屋にいるの。夜まで帰って来ないって言っただろ?」 前衛は前衛、後衛は後衛。ハンターとブレイバーの仕事の後片付けは全く異なる。 後衛は恐らく1日がかりになるだろうと事前に告知されていたのは、この同期も知っているはずだった。 確かにキーは渡してあるが、入室時間のログを見る限り、前衛の仕事が終わってからすぐにこの部屋で帰りを待っていたことになる。 自分の自然な問いに同期は一瞬眉を寄せ、先ほど手当てし終えた、後衛ならば必ず避けるであろう二の腕の包帯を優しく撫でるだけだった。 「じゃあ、安静にしてろよ。」 そう言ってさらりと髪を撫でて去ろうとする同期の表情で、言いたいことはだいたい分かる。 というよりも、部屋に戻って姿を見つけた瞬間に察していた。 「れーお」 ドアのスイッチに触れようとした背中に声を掛けると、普段は恥ずかしくて呼べない愛称に軽く目を開いて振り返る。 「誕生日、おめでと。」 時計は0時。 思わず伏せた赤い顔を、愛しいあいつは笑って見ているのはいつものこと。 ただ、珍しく少し染まった目元が見られるのならば、この羞恥も悪くない。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加