第1章

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不調に気付いたのは、初めはなんとなくだった。 2人きりの時以外には絶対に触れてこないはずが肩に寄り掛かってきたり、首に顔を埋めてきたり。 いつもはひんやりとしている細い指先が、妙に熱を持っていたことで確信した。 「39度って高熱じゃねえか。何してんの馬鹿なの?」 先日の仕返しとばかりに瑞樹が言い放つが、それに返ってきたのは咳と気まずそうに逸らされた視線だった。 任務終了後に嫌がる相手をベッドに蹴飛ばして問答無用で当てた計測器が出したのは、よく任務をこなせたなと感心すら覚える高熱だった。 横たわると緊張が解けたのか、今は息も荒い。 何が心配させるな、だ。自分のことは誰も心配していないと思っているのか。 「お前のサポートパートナーはしばらくこっちで預かるからな。」 機械だが、マスターを心配する心はある。 風邪を知識として持っていても対処の仕方が分からないサポートパートナーは、見ていて可哀想なほどに狼狽えていた。 別の場所、せめて仲間のいる場所に移しておけば心身共に多少は安定するだろう。 ぶちぶちと文句を言いながら手続きを済ませる瑞樹の背中にかけられたのは、小さな謝罪の言葉だった。 「ごめん。」 「うっせ。さっさと寝てさっさと治せよ。とりあえず買い出ししてまた来るから。 ったくなんで任務なんかに出るかな…。」 べしりと容赦無く額を叩いて背中を向けた瑞樹は、衣服の違和感に足を止める。 「なに。」 掛けられた布団から伸びた指が、瑞樹のコートの裾を掴んでいた。 しかしその行動に自分も驚いたのか、その指はすぐに離れてしまう。 風邪で想像以上に弱っているのだろう。 また背中を向けると、ドアのスイッチに手をかけた。 「…嬉しかったんだ。」 ぽつりと呟かれた言葉に、その手を止める。 「お前、武器持ち替えただろ。弓から刀に。」 こいつは。 「嬉しかった。前線と後衛じゃなく、一緒に戦えるのが。」 こいつは、いつもずるい。 「熱があるのは分かってた。でも、嬉しかった。同じ景色を横に並んで見られるのが。」 こいつは、ずるい。 だから、いつまでたっても戦う後ろ姿に憧れてしまう。 だから、いつまでたっても一緒にいたいと思ってしまう。 「むかつく…。」 ローラから一番効く、一番苦い薬を混ぜたおかゆを作ってやると心に決めた。
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