第1章

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沼田美樹先生は、教え方もよく、先生という立場を鼻にかけず、他の先生たちに比べるととても人気があった。 人気があるのは、教え方がいいのもさながら、そのおっとりとした性格からだろう。その性格から、自然と生徒が話しやすいという雰囲気を出していた。 ただ、おっとりとした性格といっても、生徒とはしっかりどこか線引きをしており、たまに先生が生徒の中に交じってその線引きをせずに、おしゃべりに夢中になるようなことはなかった。 もちろん、そのような線引きをしていても、生徒に対する思いやりは他の先生と比べると十分にあった。 17時15分になると、すぐに職員室をあとにする先生が大半の中、沼田先生はそのあとも残って生徒の進路や相談事、分からないところを教えるといったことをしていた。 ライムも生徒会で遅くなったとき、沼田先生が遅くまで残っているのを、何度か目にしたことがある。 それを見て、 「他の先生たちと違って、熱心だな。」 とライムは思った。 しかし、その熱心だと感じた沼田先生がいまこの場にいる。 しかも、このような事態というのに平然としている。 そして、クラスのほとんどがいないことに何の疑問を持っていないようである。 つまり、それは体育館の惨劇のときにいなかったにも関わらず、そこで何が行われたのかをすでに知っている可能性が高い。 それなら……… 安芸先生と沼田先生は、すべて繋がっていたことになる。 だが、思い過ごしかもしれない。 それでも、胸の中には暗雲がさらに立ち込めてくる。 その暗雲が晴れぬ中、不安と恐怖に身をおきながらのホームルームが開始する。
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