第1章

160/234
前へ
/234ページ
次へ
良は、凄まじい勢いで安芸先生に右拳を上げ、顔を殴る。 だが、良の右拳は、安芸先生の顔にあと数ミリで届くというところで止まっている。 「な、何でだよ………」 良は、怒りまかせに拳をふりかざした。そして、皮肉にもその拳が自分の意思とは反した形で動かなくなり、ようやく冷静さを取り戻した。 良の体には、白いモヤがすでにまとわりついていた。 そう。 良の右拳の自由を利かなくしたのは、あの白いモヤである。 「良、お前は先生に向かって殴りかかるようなやつだったとはなぁ………」 安芸先生の表情に特に変化はない。しかし、その言葉の奥には明らかな不愉快さを感じているものがある。 「良、何か言うことはあるか?」 「あ………あ………あ………」 良は、首を横に振る。その顔には恐怖の色がにじみ出ていた。 「反省は…………しているようだな。」 安芸先生が、良の顔をのぞきこむ。 「だが、反省していても、お仕置きというのはいくつになっても必要だ。」 白いモヤに包まれた体が宙に浮く。 良は、手足をバタバタと動かす。しかし、その抵抗は白いモヤに包まれているいまに至っては無意味だった。 ライムは、その瞬間、咄嗟に動いていた。 良の体が窓に向かって投げ出される。そのコンマ何秒前にライムは動いていた。 ライムという支えがなければ、柏木と同じ運命になっていただろう。 ライムの背中は、吹き飛んできた良の体を支え、窓ガラスにぶちあたる。 窓ガラスは、 ピキッ と音を立てヒビが入るが、割れることはなかった。 結果、ライムのおかげで良は、貴重な命を失わずに済んだのである。
/234ページ

最初のコメントを投稿しよう!

515人が本棚に入れています
本棚に追加