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良は、凄まじい勢いで安芸先生に右拳を上げ、顔を殴る。
だが、良の右拳は、安芸先生の顔にあと数ミリで届くというところで止まっている。
「な、何でだよ………」
良は、怒りまかせに拳をふりかざした。そして、皮肉にもその拳が自分の意思とは反した形で動かなくなり、ようやく冷静さを取り戻した。
良の体には、白いモヤがすでにまとわりついていた。
そう。
良の右拳の自由を利かなくしたのは、あの白いモヤである。
「良、お前は先生に向かって殴りかかるようなやつだったとはなぁ………」
安芸先生の表情に特に変化はない。しかし、その言葉の奥には明らかな不愉快さを感じているものがある。
「良、何か言うことはあるか?」
「あ………あ………あ………」
良は、首を横に振る。その顔には恐怖の色がにじみ出ていた。
「反省は…………しているようだな。」
安芸先生が、良の顔をのぞきこむ。
「だが、反省していても、お仕置きというのはいくつになっても必要だ。」
白いモヤに包まれた体が宙に浮く。
良は、手足をバタバタと動かす。しかし、その抵抗は白いモヤに包まれているいまに至っては無意味だった。
ライムは、その瞬間、咄嗟に動いていた。
良の体が窓に向かって投げ出される。そのコンマ何秒前にライムは動いていた。
ライムという支えがなければ、柏木と同じ運命になっていただろう。
ライムの背中は、吹き飛んできた良の体を支え、窓ガラスにぶちあたる。
窓ガラスは、
ピキッ
と音を立てヒビが入るが、割れることはなかった。
結果、ライムのおかげで良は、貴重な命を失わずに済んだのである。
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