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「夏生くんが受験教科を教えてくれれば、涙もまた他の教科に身が入ると思うんだが……頼む」
頭を下げる義父の横で母さんが俺を睨み付ける。
「勿論、するわよね? 夏生」
母さんが俺を非難するような強さで睨み付ける。
……なるほど。やられた。
義父も母さんも涙の意見を尊重する。
俺の意見は関係ない。
涙の手段だ。汚い。回りから囲みやがって。
逃がさないつもりか。
「俺だって卒レポや研究で大学から帰れない時もあるんだってば」
「邪魔しない! 邪魔しないよ!! 兄さんに教えてもらえるなら。んーん。兄さんが家に帰ってきてくれるなら」
ぎゅっと抱きついて耳元で囁くのはいじらしい姿とは逆の悪魔の囁き。
――もう逃げられないよ。
「お前っ」
「週に二回。二日は必ず帰りなさい。いいわね? 命令よ。夏生」
母さんがテーブルを叩き怒りを露にする。
この様子は初めてみるが、――かなり本気だ。絶対曲げない。
俺が渋る様子に義父も提案した。
「私の末の弟が二十歳そこらで君らと近い。家事全般頼むし夏生くんの大学までの送迎も頼んでおこう。君に時間はとらせない」
「「え?」」
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