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男子トイレの入り口――扉の前にプレートがある。
『清掃中』
辺りに人が居ないことを確認して、扉を開き、滑り込むようにして、男子トイレに入った。
中は比較的綺麗で明るく、広さもあった。
鼻歌が聞こえる。
『エリーゼの為に』――
手洗い場に寄りかかるようにして立っている男が居た。
顔は向こう側を向いていて見えないが、黒いコートに身を包み、華奢でありながら鍛え上げられたような高身長の男――。
どことなく、洗練された雰囲気を持つ男――。
『エリーゼの為に』が。
突然、止まる。
男が勢いよく振り返った。
思わず、息を飲む。
男の顔は――美しかった。
『綺麗な人でした』
顔を赤らめながら、説明していたウェイトレスのことを思い出す。
切れ長の二重瞼。筋の通った鼻。薄くて紅い唇――。
男から目が離せなかった。
「改めて。はじめまして。禁書法特務治安維持部隊――四番隊隊長の……」
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