目撃者

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 元々オカルトなんて信じていないし、  ここで噂がデタラメだと皆に言ってやるのも面白そうだな、と思ったんだ。  くだらない噂にビビッている自分も嫌だった。  だから、“先の見えない階段”を上った。  真っ暗で先が見えないから、手摺に頼る。  足許だけを見て、一段一段、緊張しながら上った。  得体の知れない寒気と、  階段を踏み外してしまう錯覚が、前進を妨げた。  上がるに連れ、まるで重力が増すように、全身がどんどん重苦しくなっていく。    やがて誰かに足首を掴まれているように、  足が上がらなくなった。  吐き気と眩暈がして、“これ以上は危険だ”と自分の中の何かが警鐘を鳴らしているんだと自覚した。  さすがにこれはまずい――と、ようやく馬鹿な事をしようとしているんだと気付き、引き返そうとしたが、  身体がいう事をきかず、  殆ど自動的に、進んでしまう。  “ダメだ”  と強く思い、目を瞑って身体を堅く緊張させると、  ようやく意思通りに、止まることができた。
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