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するとやがて、沈木に“及川”と彫られたらしい。掛川君が狼狽し、蠢動し始める。彼もまた、僕同様、及川君に捨てられた身なんだろう。
どうやら10年も悪霊をやっていると、念写くらいはできるようになっていたようだ。
掛川君が沈木の出入り口を開けたり、窓を開けたりしてくれて、そのときだけ沈木の牢から出られるようになった。
といっても、僕の住処は此処なのだから、気がついたらこの場所に戻ってしまう。自由に動き廻れるのは、この沈木の牢に出入り口ができる、一時だけだった。
だから僕は、この武道館内ではほぼ掛川君と行動を共にし、
そして彼に協力した。
彼に協力すれば、沈木の壁を撤去してもらえると思ったからだ。
及川君が居ないのだから、沈木の壁は邪魔でしかない。
だから僕は暗躍し、掛川君と共にオカルト話を広めたのだ。
そうやって彼に憑いているうちに、彼にも愛着が湧いた。
僕と同じ、捨てられた可哀想な子――今度こそ、失う前に殺そう、と決める。
そして今、掛川君自身の手で、この沈木の壁は解体され始めた。
僕は知っている。
夏休み中に、この壁を撤去し、元通りにしないと、彼は退学となってしまうのだ。
ありがとう、掛川君。
これで僕は自由になれる――
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