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この世界では100個の嘘をつくと一週間以内に死んでしまう。
そんな世界に、真実を見ることのできる者がいた。その名は「真実を知る者」や「真実を語る者」などと呼ばれていた。
そして彼もその一人であった。
砂漠に飲み込まれそうな街。
その街は、その砂漠から身を守るために巨大な壁に囲まれていた。
「水いらんかねぇ」
この街ではそんな声が街中に響く。
乾燥地帯では水は高級品だ。
しかし、彼ことレイがその声を素通りしているのは値段が問題ではなかった。
彼の一族は不死だった。水は飲まなくても少し体調が悪くなる程度だから、わざわざ高いところで買う必要もない。
「そこの少年。このマント買っていかないかい?ここらでそんな格好じゃあ死んでしまうぞ」
レイに話しかけたその老婆は店の中から大きな布を差し出した。
「いくらですか?」
「良い物使っているからね100ドルでどうだい?」
老婆が値段を言い終わらない内にレイはいらないと言った。
ただ、その値段ではという言葉を添えて。
そして、レイが言った値段はその半額以下だった。
「いい目しているね。試していたんだよ。その値でいいよ」
「どうも」
「まいどあり」
受け取った緋色のマントを羽織るとレイは金を渡すときにその老婆の耳元で囁いた。
「今の2回で最後でした」
老婆は言葉の意味がわからなかった。
そして老婆が思考の旅から返ってきた時にはレイはもうそこにはいなかった。
聞こえるのは水の商人の声だけ。
その夜のこと。
街の酒場の娘として店を手伝うリザは、店の裏にゴミ袋を置きに行った帰りだった。
「助けて……」
そんな小さな弱々しい声が聞こえてきた。
その声がした小路を頭だけだして見てみると、黒いマントを深く被った人が、地面に座って絶望に満ちた顔をした老婆に斧を振りかざしていた。
次の瞬間。グシャっという鈍い音の後から、水ではないどろっとした液体がぺちゃっと音を立てて飛び散った。
リザはおぞましさから一歩後ろにさがった。
リザの足元にあったビンがコロコロっと高い音を鳴らしながら転がった。
「誰かいるのか?」
その声はなんだか同じ生き物の声には聞こえず、気持ちが悪かった。
黒いマント影がリザに近づいていく。
リザは逃げるように走り出した。
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