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「今日も最高だったぜ、ほら」
チャリンという小銭の音。
キンッと響くジッポの音。
カチャカチャはベルトの音。
ガタガタという彼の足音。
『毎度どうも』と聞こえた──彼女の声
汚い、汚い汚い汚い汚い汚い汚い。
情事を終えた隣の部屋。私には黒いなにかが抜けたように思えた。
お姉ちゃんは汚れてる、凄く、酷く汚れてる。
だけど、奨学金だけで私は大学に行けなかった。高校卒業すら危うかった。
そんな私を救ってくれたのは、間違いなく大好きなお姉ちゃん。
毎日毎日将来に悲観的になっていた私を助けてくれた恩人は……今さっきまで嬌声をあげていたお姉ちゃん。
「カスミ、ご飯買って来てー」
「……はい」
わかってる。私だって、今年で20歳。わかってるよ……。
だけど『防音だ』なんて嘘ついて男の人を部屋に呼び込んで情事にふけられなくてもいいとは思う。ホテルで事を済ませても……。
でも、最低なのは私なんだ。
私が、私が大好きなお姉ちゃんなのに、汚い女だと思っていることが一番最低。
お姉ちゃんは身体一つで稼いでる……お気に入りの客にはこうして枕までして、24時間『性』を売って稼いでる。
私だけだよ、私だけ何もしてない。
姉の事を軽蔑しながら、自分の身体は"男"に触れられずに綺麗なまま。だけど、お姉ちゃんのお金は使ってる。
どっちが最低なの?
私?姉?
こういう風な家庭にしたお母さん?
玄関を出た私は、マンションの踊り場から空を見上げた。
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