第1章

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俺は所謂びっち──尻軽なんだと思う。 金が貰えるなら禿げて油でぬるぬるしてるおっさんにだって体は売るし、厚化粧の汚いババアも抱ける。 最初は躊躇した、だけど、目の前の金には逆らえなかった。欲しい物がその紙切れ一枚で買えるのだ。しかも、気持ちいい事をして稼ぐことが出来る。売春は俺の天職だとさえ思ったほどだ。 だから俺は、びっちなんだと思う。 喧騒に包まれた教室内。受験生だというのに暢気なものだな、と何処か他人事のように思う。自分も当事者なのだが、スポーツ推薦で入れるだろうと踏んでいるからだ。行きたい大学の勉強も一応してはいるし、入れない成績でもない。ペラペラとテキストをめくりながら昨晩のことを思い出していた。 昨日は四十代の市議会員の女を抱いた。その女は羽振りがよく、俺からもよく声をかけていた。今左手に付けている時計もその女からの贈り物だ。それは学生に不釣り合いなブランド物で、女がどれだけ俺に入れ込んでいるかを証明するバロメーターの様なものだった。お互い持ちつ持たれつ、利害の一致、とはまた違うような気もするが、利用し合う関係だったのだが。 ──最近本気になってきてやがんだよなぁ。 俺はセックスに愛情を求めていない。与えるつもりもない。最初からそういう約束なのだ。しかし、希にそれを忘れて付き合おう、等と言ってくる輩もいる。この女もそうだった。ぼうっと時計を眺める。規則正しく刻まれる秒針の音が耳障りだ。 ──そろそろ切り時かね。 そう思うやいなや、俺は携帯を取り出し、メール画面を開いた。そして、「もう会わない」とだけ入力し送信すると、女のアドレスを着信拒否に設定する。常套手段だった。しつこい奴はいつもこうやって切っている。ふぅ、と一息つき背筋を伸ばす。一仕事終えた気分だ。再びテキストに目を戻そうとしたとき、不意に声をかけられた。
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