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「なあ岩橋、その時計ブランド物じゃないのか?どうしたんだ?」
前を見る。するとそこには同じクラスの木戸義隆がいた。不思議そうな目で俺の左腕を見ている。
「買ったんだよ」
「マジ?そんな金あんの?岩橋ん家って意外と金持ちだよなー、お前も色々持ってんしさ」
屈託のない笑顔で木戸はコロコロと笑う。こいつは馬鹿正直に俺の言葉を信じる。普通、高校生がそんなに金を持っているわけがない。普通なら何か疚しいことをしてるのではないかと疑うものだ。事実しているのだが。他の奴は薄々気付いてはいるみたいだが何も言ってこない。陰で言われているのかもしれないが、真偽は判らない。だが、こいつは一つも気が付いていない。
──俺のことが好きなクセに、だ。
同じ部活になって最初に話しかけてきたのはこいつだった。その頃は俺もまだ売りをやっていない普通の高校生だ。
──俺、木戸義隆。木の戸に正義の義、隆起の隆できどよしたか。君は?
──岩橋、駿弥。岩の橋に駿足の駿に弥生の弥でいわはしとしや。
──しゅんやじゃねぇんだ、よろしくな、岩橋!
何が楽しいのか木戸はカラコロと笑うと握手をしてきた。俺は戸惑いながらもそれに応じ、元気な奴だなぁ、等と考えていた。
それが俺と木戸のファーストコンタクトだった。
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