第1章

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木戸の気持ちに気付いたのそれから暫く後、二年で同じクラスになってからだった。ふと授業中に視線を感じ、振り向くと木戸がこちらを見ており、目が合うと慌てて逸らすのだ。最初は気のせいかと思っていたが、そんなことが一ヶ月程続くと、流石にどう思われているかに気付く。ああ、俺のこと好きなんだ、そう思った。 男が男を好きだなんて倒錯している、等とも思ったが、人それぞれの性癖がある。俺にどうこう言う権利はない。好意が自分に向けられてはいるが、木戸は無闇矢鱈に触れてきたり、構ってきたりしないのでまあいっか、と軽く流して気づかない振りをしていた。もし襲いかかってきたら勿論抵抗して殴る位はするが、迷惑をかけられてもいないのにそんな事も出来ない。それに、俺にとって木戸は部活仲間であり、大切な友人だった。関係を壊したくないと思ったのだ。 そうして俺が木戸の気持ちに気付いて三ヶ月くらいがたったある日のことだ。部活の大会が終わり、三年生の引退パーティーを開いていた。浜辺でバーベキューをしたり花火をしたりとなんとも学生らしいパーティーだ。俺は部活の先輩の荒ゐ雄彦と仲が良く、その日もその先輩と話をしていた。 「なあ岩橋」「なんですか、荒ゐ先輩」 「…お前この後時間ある?」 今思えば思わせ振りだったようにも思う。だが、その時の俺は警戒心など一切持たず、はい、と応えていた。 自分が男にどう見られているか なんて、男に生まれたら普通考えないだろう。俺に非はなかった、と思う。 たとえ無意識に誘うような素振りを見せていても、だ。 それは俺の意志なんかじゃあない。 だから、こうなったのもある意味必然だったのだろう。 そしてこれこそが、俺の人生の転機となった出来事だった。
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