故郷

5/18
8347人が本棚に入れています
本棚に追加
/1520ページ
そんな感傷に浸っていると、また懐かしい建物が…… 「あっ!あそこ!あの神社の近くが私の実家」 土俵が併設された森の一角にある小さな神社を通り過ぎていく。 「実家、寄らなくて良かった?」 一之瀬君は気を遣って聞いてくれる。 「今日は、いいよ」 「滅多に帰らないんでしょ?」 「大丈夫だよ!それに、今日はお兄さんとのお出掛けなんだから気にしないで」 実家なんて寄られたら、きっと気まずいだろうに…… 声を掛けてくれる一之瀬君はやっぱり出来た人だ。 「あそこで毎年、秋祭りがあるんだけどね。 獅子が怖くて、小さい頃は逃げ回ってたんだよ」 「へぇ、オレの実家の辺りはそんなの無いや」 話しているうちに、どんどんと懐かしい記憶が甦って来て 100円を握り締めて駄菓子屋で買ったお菓子を境内で食べた事や 大晦日には紅白歌合戦を観た後に、大雪の中、除夜の鐘をつきに行った話をする。 その一つ一つに相槌を打ちながら、何かしらの感想を一ノ瀬君は述べてくれる。 自分の過去や、育った場所を知って貰えるのは何だか嬉しい。
/1520ページ

最初のコメントを投稿しよう!