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町の中心を抜けると、どんどんと民家は少なくなってきて
かわりに青々とした山々が姿を現し始める。
「山ばっかり。
緑がいっぱいでいいね」
都会育ちの一之瀬君は、視界いっぱいに広がる緑に目を細めた。
「何にもないでしょ」
私にとっては、ただのド田舎。
久しぶりに戻って来てみると、今までどうやってここで暮らしていたんだろうと、
不思議にさえ思えてくる。
「それが、いいんだって。
だって、自然の中で遊んだでしょ?」
「確かに……川でもいっぱい泳いだし、山の中に入って遊んだりもしたね」
「でしょ、それが羨ましいんだよ」
「ふ~ん」
そういうものなんだ……
良く分からないけど、都会人が田舎暮らしに憧れるのと同じ感覚なのかな。
「でも、オレ、やっぱりここには住めないや」
「どうして?」
「だって、花粉多そうだし……」
笑顔がしかめっ面に変わった。
「ほんとだ。
ここに住んだら凄い事になりそうだね」
真夏以外、ほぼ年中なにかしらの花粉症の可哀想な一之瀬君。
「うん、絶対にヤバい。
ほら、あれってスギの木でしょ」
心底嫌そうに、スギ山を指さす
申し訳ないけど、恐怖心いっぱいの彼の顔が面白い
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