< 白き獣と迷い子 >

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    童の口には少し大きかった  が、歯を立てれば柔らかく溶  けていく。甘く瑞々しい果汁  が口の中を潤し、喉を通すと  不思議な感覚がした。  「……っう」   そして、胃に入るとじんわ  りと熱を持つ。その熱は徐々  に温度を上げて、胃が焼ける  ように熱くなる。   童は腹を抱えてうずくまる。  毒だったのかと、食べたこと  を後悔した。父に教わったこ  とを思い出し、吐いてしまお  うと口を開く。指を喉に入れ  ようとした時、陽の光を遮る  影があった――  「どうした」   人の声。童は驚いて顔を上  げる。   細長い男が童を見下ろして  いた。陽の光に照らされて輝  く長き髪は、透けるように白  い。  「あ、う……」   胃が焼け、喉は詰まり、童  は声が出せずに男の袴を掴ん  で救いを求めた。
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