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男は地に落ちている皮を見
つけると、しゃがみ込んで童
の二の腕を掴んだ。
「あれを喰ろうたのか」
金色の瞳が童を見つめ、そ
の見覚えのある色に男が夕べ
の白き獣だと童は悟る。
出ない声の代わりにコクリ
と頷くと、人型の獣は童を軽
々と抱き上げた。
地を蹴って飛び上がった獣
は、木の枝を足場にして次か
ら次へと枝の上を渡る。
常人ではない身のこなしに
童は驚き、見たことのない視
点の高さに怯え、獣の羽織を
ギュッと握った。
「……」
獣はその手を見た。久方ぶ
りに触れた、人の温もり。懐
かしい人間の匂い。獣にとっ
ては全てが懐かしく思えた。
――獣が地に足を着けたの
は、湧き水の流れる砂利の上
だった。
濡れないようにと、岩の上
に童を寝かせる。そして湧き
水を両手に溜めると、童に飲
むよう差し出した。
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