< 白き獣と迷い子 >

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    尾を揺らし、立ち上がった  獣は音もなく枝から飛び降り  る。  「うわっ!」   童のすぐ目の前に着地した  獣は、尻餅をついた童に迫り  来る。クンクンと鼻先を押し  付け匂いをかがれ、ベロリと  頬を舐められた。  「わ、私を食べるのですかっ」   童は獣の鼻を押し返しなが  ら抵抗してみた。獣は不快そ  うに目を細めると、前脚で童  の胴を踏みつけ。小さな身体  は地べたに押し倒された。  「お許し下さい!どうか食べ  ないでっ」   童はまた泣き出した。もう  帰れないのかと思うと、家族  の姿が浮かんで来る。   ところが……いつまで経っ  ても獣の牙が小さい身体を貫  くことはない。  「……食べないのですか?」
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