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童がそう尋ねると、獣は前
脚をどけ、童の周りをぐるり
と回り込んで身体を伏せた。
童の身体を覆い隠すように、
大きな尾が童を包み込む。
――ポツリ、ポツリと雨粒
が落ち始め。次第に大降りに
なった。
童は暗雲の空を見上げ、そ
して白き獣の顔を見た。獣は
ジロリと童を見返し、静かに
瞼を閉じた。
「ありが……とう」
童は桜の木と、獣のお陰で
濡れることはなく。気温が下
がる中でも、獣の体温でぬく
ぬくと暖かい。
童はそっと獣の腹に触れて
みる。ふわふわとしていて気
持ちが良い。
チラリと獣の顔を見るが、
綴じられた瞼は動かない。童
は思い切って獣の腹に寄りか
かる……布団よりもフカフカ
で、獣が呼吸するたびに動く
身体が、揺りかごのような心
地よさを再現する。
童は不安の中、歩き続けて
いたので酷く疲れていた。気
付けば白き獣の加護の下で、
深い深い眠りについた――
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