< 白き獣と迷い子 >

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  ――‐‐   小鳥のさえずりに童は目を  覚ました。周りを見回しても  獣の姿はない。   あれは夢だったのだろうか  ……童がそう考え俯くと、そ  こには琥珀色の実が落ちてい  た。   これがあると言うことは、  やはり夢ではない。童は胸を  弾ませ実を手に取った。   すると、寝起きだというの  に腹の虫が豪快に鳴く。思え  ば、丸一日食べていない。   童は実を観察した。  「食べられるのかな?」   見たこともない実は花弁の  ような薄い皮が何十にも重な  っている。それを剥ぐと、ク  ルミほどの大きさの実が現れ  た。仄かに輝いているように  見える薄紅の実は、とても美  味そうだ。   ごくりと喉が鳴る。見知ら  ぬ物を口にするのは危険だと、  父には教わっていたが、空腹  と実の魅力には適わなかった。   童は口を大きく開き、実を  丸ごとほうばった――
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