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それだけだと。人に化けるという判断はある意味で正解だった。実際先生はとらわれることもなく片言なら人の言葉を話せるまでになった。狐とばれたらどうなったか。確かじゃない。けれど、いくつかの民話のように殺され、悪い狐とされた可能性は高いと思う。けしてあの手の話がすべて嘘だ等と言うつもりはないさ。事実をとどめた物語は少ない。例え事実をもとに構成されていたとしても、物語として形成された時点でそれは歪み細かな点にしても齟齬が発生していく。見栄か虚勢かあるいは……単なる遊び心なのかもしれない」
話がそれたね、と笑うと彼はまた空を見上げ、目を細めた。
「ともかく、先生は人間に紛れ込んだ。僕ら妖でさえ近づかなければ見分けがつかないほど巧妙に、ね。さすがに狐達は人間の区域に居るくらいまでは突き止めた。狐は……妖孤はその妖力の強さのためなのかな。自尊心が強く、仲間意識が非常に高い。特にこの先の郷の出身ってやつはね。だから、彼らは先生が合図をくれることを信じたんだよ。自分たちは見ている。もしお前が危機の中にあったとしてもお前を見逃さない、と。
そして、合図をおくれる状況を作り出した。そう……都のあちらこちらに火を放ったんだよ。紅葉くんはおかしいと思うかな。でも、彼らは彼らにとって正しいことをした。これは理解してほしい。狼煙をあげるにしても敵の目の前で、刀や弓を向けられてするようなやつはまずいないから。味方が合図をおくれるように人々の注意をそらすのが目的だったんだよ。流石に僕も少々派手に暴れすぎだとは思う。人間の動きを見ればわかりそうなものだよ。彼らは集団での意思疏通や、行動力。道具の扱いには長けているが、異常事態というものに弱い。他の生物が危機を察知して逃げるとしても狼狽し、まともな判断を下せないことがとても多い。まあ、これは一般論でしかないんだけどね。まあ、なんにせよ火は放たれ、人々は混乱状態に陥った。狐たちの思惑通りにことはすすんだよ、先生は合図を返したんだ。一帯に雨を降らせることで。
一つ誤算があったとすれば……先生が彼らのとった手段を嫌ったことだろうね。
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