猫の手鏡

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「書いた方が覚えられると思うからな。覚えたいことがあったら書くとええよ。でも、そないなに興味がないって言うなら物語でも聞くつもりでいればええよ。 では、しばらく前の話から。紅葉君が生まれる前かな。何百年かの間ずっとこの国は閉ざされとったんだよ。よその国……ええと、先生のいう異国だな。から来ることも行くことも難しかった。そないな時代。でも、いくつかの国とはちびっとだけ交流があって、その国から来たものは藩主様とか将軍様とかが買い求めたりして楽しんでいたんだよ。異国の物は庶民にはなかなかての届かないものやったわけや。 そやけどね、ここからが今の話。黒い船が来たんだよ。黒くて巨大な船。もともとたまに来ることがあった黒い船やけども、今回はちょい様子が違った。自分たちの国と商売したりでけるようにしろ! って結構無理矢理言うて来たわけさ。役人はんたちは大騒ぎでさ、だいぶ混乱しとったけど結局はこの国のいくつかの港を開くことになったよ。お侍はんとかには反対も多いんそやけどもな。あたしは仕方ないことかなって思ってる」 「反対も多いってのはなんでなんだ? だってあんなすごいもん作れる人たちが来るんだろ。教えてもらった方がいいんじゃないの?」  侍さんの事情なんて知らないけれど、知識が増えるのは悪いことじゃないはず、だと思う。少なくともおれ自身は文字の読み書きとか、算術とかを教えてくれた親や先生には感謝してる。最初は難しいな、とは思ったけど。夢さんはふむふむ、とわざとらしく頷く。 「仕方ないことではあるんだよ。異国の人たちはこの国を利用したくて言うてきてる部分もあるの。船旅ってむちゃえらいらしうてさ、補給地は多いに越したことはないし、有利な貿易がでける国も同じ。そないなふうに考えて来てる人たちを入れてしもたら国がどうなるかもわかれへん。国を動かす人たちにはそういう考えがあるんよ。たぶん、な。  そういう質問はどんどんするとええよ。まだ紅葉君にはわかれへんと思うけど、これから町の人たちと話したりするとね、そういうのが大切になるの。聞かれなきゃ答えへんし、呼ばれなきゃいかない。それがここでの普通。そやし、きちんと言葉にしなきゃあかんよ。  ま、ええや、続けよか」
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