猫の手鏡

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そこまでいったところで夢さんが顔をあげる。少し離れた辺りから鈴の音が聞こえて来る。帰ってきたのか? なんて思っているうちに音は大きくなり、先生が部屋に入ってきて、間襖と襖の合間から廊下を通っていった桐花さんと一瞬目があった。挨拶もしないままにすたすたと立ち去る桐花さんは先生たちとはまた別の不思議な雰囲気がする。なんというか、何かを突きつけられてる感じがするんだ。気のせいだとは思うけれど……たぶん。いつか自己紹介くらいできるだろうか。 「さて、どうしましょうか……」 「なにか面倒なこと?」 問いかけに首を横に振ることで答え、先生は棚の上から箱を降ろす。小さな木の箱は埃を被っていていかにも古そうだ。口元を袖で押さえながら近づいてみる。それでもやっぱり鼻のあたりがかゆいような感覚がしてきて、小さなくしゃみをした。どれだけ放置されてたんだよ。 「さて、参りましょうか。紅葉くんも来ても良いけれど。日毎日家にいたから、退屈してるのでは?」 先生は箱の埃を綺麗にはらいながら微笑む。退屈かと言われたらそんなことはないけれど、出掛けてはみたい。 「いきたいです」 先生が満足そうに頷く。楽しそうに。歌を口ずさみながら木箱を布でくるんでいく。 黄泉の 守りの 掟なり 人の 想いを 打ち捨てて 幾多の 妖 振り払う 黄泉の 守りの 掟なり 魂 纏った 証持ち 人の 想いを 打ち捨てる 我の 想いは まだ言えぬ 許されざるも 役目なり 黄泉の 守りの 掟なり 百年 過ぎた あかつきに いつかの 証 返そうか 永久に 見守る 印なり 我の 想いは ここにあり 口ずさまれたのはそんな歌。 ◇◇◇
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