猫の手鏡

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いいながらも先生はその見えない地面から飛び降りる。ゆっくりと降りているのか、そう思えるだけなのか木々が迫ってくる勢いは先程上ったときより幾分か緩やかだ。 目の前の青が緑に変わり、茶色になって地面へたどり着く。足に柔らかな衝撃がやって来て、それと同時にはっきりしてきた葉が揺れる音に紛れて金属の高い音がした。 side:another 飛ばされた刀の一部は慌てて体をひねった少年のすぐ隣を通り、着物が裂け、そのまわりに血が滲んだ。 夢の足が次の狙いをそこに移そうとしたとき、ぱんぱんと手を打つ音が木の影からして、先生と紅葉が姿を表す。 「お疲れさま。さて、とりあえず二人とも怪我の手当てを……さすがにこの戦力差で喧嘩売る気はないでしょう?」 少年はなにも言わず、先生を見上げる。それまでの態度からは不自然なくらいにあっさりと彼は状況を認識し、肯定していた。 「紅葉くん。夢さんの方の傷を。止血と病気が入り込まないようにだけ、お願いします。傷はすぐ塞がるはずなんでね」 簡単な止血を終え、傷口の汚れを取り除く。それだけの作業のうちに夢の傷は大方なくなっていた。夢自身、少しの間は違和感を感じるのか手を開いたり閉じたりしていたが、すぐに飽きたらしく先生の作業を見守る。先程まで争っていたことを抜けばかなり平和な光景だった。 「こんなものかねぇ……」  地面に刺さったままの剣の先半分。少年はそれを引き抜き茂みへ投げ捨てる。そして、三人へ向き直り、表情を変えぬまま 「で、なに。できる限りで従うから早くしてほしいんだけど」 それだけをはっきりとした声で言った。
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