狐の戯言

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あんたも酔狂な方だ、そう笑ったのは陽気な白猫か怖がりの狸か。あるいは同族の誰かであっただろうか。まあ、そのように映るのも致し方ない事。 口元に微かな笑みを浮かべ、しばらく空を漂う。人目につかぬようにと身に纏わせておいた雲を手で払い、ようやく見つけたその場所へと向かう。日の光が森の草や小動物へも差し込む、木の葉が触れあうことない地点。そこを目指し一直線に山へと降りた。片足が地に付くと風と木々の揺れる音を打ち消そうとするかのように、着物の裾に雑に結わえられた鈴の音が響く。 ああ、外すのを忘れていた。けれど気にするほどの事でもあるまい。 視線を向けた先にいるのは散り始めたばかりの葉に紛れるように地に身を預ける一人の少年。ぐるりを見れば側には足跡が三つ、いや二つだ。片方の足跡は少年の側で方向を変え、山の麓へと向かっている。もう一方が少年のもの。歩幅も小さく、ふらついている。 少年には此方に気付くだけの気力も残っていないのだろう。ただ、荒く苦しげな息を吐くのみである。 気づかれたところで今の私は人の形をしているのだが、それでも音を立てぬようにと慎重にかがみこむ。 なあ、少年。貴方はどう思ってるのか。 少年の額に静かに手の平をあてる。荒かった息づかいは徐々に静まって行き、やがてゆっくりとした寝息へと変化した。
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