狸の昔ばなし

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狸の昔ばなし

少し、昔のことを話そうね。あれはまだ……ここに街などなくてねえ、それぞれの一族が決まった郷にすんでいたような頃の話。そいつはふらりとやってきた。当時じゃ珍しいことに人の姿をしていてさ、無地の藍色の着物で、先の方だけ色の薄くて長い髪を後ろに一つ結んでいたよ。顔もほら、きれいな方だろう? 最初は人間のおなごが迷いこんだかと思ったのさ。怖くなってさすぐに長老に報告に行ったのを今でもしっかりと覚えてる。そのとき話した一字一句までね。 「長老!人間が!!」 「何言っておるんじゃ。人間はこんなとこまで来れんよ。辺鄙な地じゃ、興味もなかろうて」 「笑ってる場合じゃないよ! 早くみんなで逃げないと」 「何を勘違いしとるか知らんが……先ほどお主が会ったのは人間ではないぞ。あんな人間はおらんわ」 こんな具合さね。僕はすっかり人間が攻めてきたと思ったからビックリしてね。だって、わざわざ人の姿しているとは思わないだろう? 君たちにこんなことを話すのもなんだが、その頃は人間というものを化け物のように思っていたからね。今は……さほど怖いとは思ってないさ。本当だって! 本当だから睨むもんじゃないよ。ともかく、それが出合いだったわけだ。長い間友人と呼ぶのも知り合いと呼ぶのも妙に納得いかない関係を続けているがね、どんな種族であれ対等に扱う彼が唯一嫌うのが居てね……。
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